第04話2019年12月17日

ムンバイの住宅開発

歴史が古くおびただしい数の人口がひしめくムンバイの住宅開発には面白い特徴があります。

 

日本の方にはムンバイでの開発を説明する際に「例えば、京都市内で大型開発をするのは大変ですが、ムンバイはそれが10倍規模だと思ってください。」といつもお願いしています。

そしてムンバイ都市圏の約2千万人の人口のうち40%がいわゆるスラム(Slum)に居住しています。ということは約8百万人!がスラムに住んでいるということになります。有名な映画「スラムドッグ$ミリオネア」はこのスラムが舞台です。

 

 

ムンバイ空港に着陸する前に外を見ると、空港の真横におびただしい数のブルーシート屋根のコミュティが湖のように広がっています。このようなスラムがムンバイのあちこちにに存在しますが、我々がツアーで見たダラヴィというアジアで最大のスラムは2平方キロの面積に86万人が居住するという世界で最も密度の高いコミュニティということでした。スラムの住人の大半は農村から職を求めて大都市に来て住み着いた人達です。ダラヴィは経済活動が活発なスラムで、ここに暮らす人たちは、家内制手工業的なものに従事する人から掃除夫、運転手、会社員や役所職員までと、ほとんどの人が仕事を持っており、いわゆる昔の日本の向こう三軒両隣的な生活共同体的なコミュニティができています。トイレや水道も共同で使用する、相互扶助コミュニティというべきものです。困ったもの同士が暮らしているからか、スラムの中ではカーストを気にせず平等な社会が築かれていると言われています。ムンバイのスラムの世界を舞台にした有名な小説に「シャンタラム」という本がありますが、実際にスラムで生活したオーストラリア人の経験をもとに書かれた面白い本で興味のある人にはおすすめです。

 

 

スラムが多いムンバイにおける住宅開発には「スラム再開発プログラム」があり、市内の住宅開発の手法として一般化しています。マハラシュトラ州ではこのためにSlum Rehabilitation Authority (SRA)を設置しています。都心のロケーションの良いスラムを中心に再開発を促進する事業なのですが、手法がユニークです。スラム住人の意思をまとめて再開発にこぎつけたデベロッパーにボーナス容積を提供し、スラム住人の生活環境を改善する、というもので、つまりスラム住人全体を地主として、その地主との共同開発事業という形をとり、彼らの住む新しい住宅をタダで提供する代わりにそれ以外の容積を使って分譲住宅を建てて売却していきます。

 

考えてみてください。数百世帯の意見をまとめ、彼らを一時期移転させて再開発を始めるわけですから、その意見調整には時間がかかります。ただコミュニティには立派な長(おさ)がいてそれなりに話をまとめてくるようです。調整や移転などに時間と資金はかかるものの、ムンバイという都心の高い土地代を払わずに事業ができるわけで、この面倒な共同事業をやり遂げるデベロッパーの利益率は40%前後と大変高いものになります。インドの政府には税金徴収による資金が不足しているため、このような社会インフラを整えることを条件にしたPPP(Public-Private Partnership)の形式の住宅開発が一般的で、スラムでない場合は、デベロッパーに市の政府職員住宅を作らせたり公共病院を建てさせたりして容積率を使った公共事業を開発に混ぜこむことが大変多いです。頭のいいインド人ならではの手法で、税金を使わずに社会インフラを整備することができていて、なかなかうまくやっている手法だと思います。

 

当社が投資しているインド住宅建築ローンファンドを通して行う案件にもこのような住宅開発が多く、我々としても利益を出しながら、インドに必要な住宅インフラの建設に少しでも参加していると思い納得しているわけです。もっと経験を積んで大きな事業に取り組めればと思っております。